経営判断① 「ショウタロウ」という生きたインフラ投資
RIIZEのメンバー構成の中で最も戦略的な意図が透けて見えるのが、大阪府出身のショウタロウ(本名:東ショウタロウ)の存在だ。彼はNCT 127時代から日本語でのコミュニケーション能力を証明しており、RIIZEへの移籍はSMによる「日本市場向けネイティブ話者の確保」という明確な意図を持つ配置転換と見ることができる。
日本のエンターテインメント市場において「言語の壁」は収益に直結する。ファンサイン会・バラエティ番組出演・ラジオ・商品PR——すべての接点においてネイティブスピーカーの存在はグループ全体の日本語対応コストを劇的に下げる。ショウタロウ1人が通訳なしで地方情報番組に単独出演できるだけで、マーケティングの射程は大きく広がる。
過去にSMはEXOに中国出身のレイを配置し、中国市場への足がかりとした前例がある。RIIZEにおけるショウタロウの役割はその進化版であり、「インバウンド型」から「アウトバウンド型」への転換——つまりファンを韓国に引き込むのではなく、アーティストが日本市場に出向いていく設計だ。
経営判断② 「世界第2位の物理市場」への早期着地
日本の音楽市場は、ストリーミング全盛の今なお世界第2位の規模を誇る。さらに特筆すべきは、その売上の相当割合をCDやBlu-rayなどの物理メディアが占めている点だ。K-POPグループが日本で「初回限定版」「握手会特典付き」「ライブ会場限定盤」といった複数形態CDを展開する場合、1タイトルあたりの単価と購買枚数が韓国や欧米とは桁違いになる。
SMがRIIZEの日本展開を急いだ理由のひとつは、この物理市場の「消費期限」への危機感だろう。日本でも配信へのシフトは着実に進んでおり、2030年代には現在の物理市場規模が維持できない可能性が高い。2026年4月22日時点で、今この瞬間に日本のCDバイヤー層——特に20〜40代の固定ファン購買層——を取り込むことが、長期的な収益基盤になるという判断だ。
RIIZE以前のSM第4世代であるaespaが、メタバース・AI世界観を軸にグローバルとデジタル市場を主戦場に選んだのとは対照的に、RIIZEは「Get A Guitar」のアコースティックタッチやメンバーの等身大アイドル像によって日本の消費者が馴染みやすい音楽的文脈に着地している。これはコンセプト設計の段階から日本市場を念頭に置いた戦略的差別化とみられる。
経営判断③ ドーム・アリーナ「先行押さえ」による市場独占
K-POPの日本公演市場は、2024〜2025年にかけて過熱が続いた。SEVENTEEN、STRAY KIDS、TWICEといった先行グループが主要アリーナとドームを長期予約で押さえ、後発グループが入り込める「隙間」は年々減っている。
SMはこの現実を踏まえ、RIIZEの日本公演を早期から計画段階に組み込んだ。韓国でのファンダム規模が成熟する前に日本の会場をキャパシティ小さめの段階から確実に積み上げ、「完売実績」を作ることが次の大型会場への交渉力になる。業界では「小屋の積み上げ」と呼ばれるこの手法は、SMが東方神起の日本市場開拓で習得したノウハウだ。
加えて、RIIZEの日本活動はオーディション番組やコラボコンテンツなど「コンテンツ露出」と一体設計されている。YouTube・TikTok・SNSでの日本語コンテンツ発信を並行させることで、「公演チケットを買いに来る層」と「SNSで知って興味を持つ層」の両方を捕捉する二層構造のマーケティングが機能している。