K-POPでもJ-POPでもない。XGの巧みなグローバル戦略を徹底分析

XGのパフォーマンスが「異次元」であることは、前回の記事で詳しく解説しました。しかし、どれだけ実力が高くても、それが世界中の人々に届かなければ意味がありません。XGがデビューからわずか数年で世界的なファンダム「ALPHAZ」を築き上げた背景には、彼女たちのパフォーマンスを支える、極めて緻密で巧みなグローバル戦略が存在します。なぜ彼女たちは、K-POPやJ-POPという既存の枠組みに乗らないのか？なぜ全編英語詞にこだわるのか？シリーズ第3弾となる本記事では、XGの成功を裏で支える、常識破りのブランディングとプロモーション戦略を徹底的に分析していきます。

第1章：「X-POP」- “国籍”を消すブランディング戦略

XGを理解する上で最も重要なのが、彼女たちが自らを「K-POP」とも「J-POP」とも定義しない、その独自のスタンスです。これは、デビュー当初から一貫している極めて戦略的なブランディングです。

なぜ「K-POP」でも「J-POP」でもないのか？

メンバー全員が日本人で、韓国を拠点に活動しているため、彼女たちはしばしば「K-POPグループ」として紹介されます。しかし、本人たちや所属事務所は、その呼称を使いません。その理由は、特定の国のイメージに縛られることなく、「XGという一つのジャンル」として、音楽とパフォーマンスそのもので世界中のリスナーから評価されたいという強い意志があるからです。

「K-POP」や「J-POP」というラベルは、世界的な認知度がある一方で、「韓国の音楽」「日本の音楽」という固定観念も生み出します。XGは、あえてそのラベルを外すことで、「国籍」というフィルターを通さずに、ダイレクトに「XGの音楽」を世界に届けようとしているのです。これは、音楽市場が完全にグローバル化した現代において、非常にクレバーな戦略と言えるでしょう。

総括プロデューサー「サイモン(JAKOPS)」の思想

この戦略を牽引しているのが、XGが所属するXGALXの代表であり、総括プロデューサーを務めるサイモン（JAKOPS）氏です。彼はかつてDMTNというK-POPグループのメンバーとして活動した経験を持ち、K-POP業界のシステムを熟知しています。彼が掲げるビジョンは、「日本の素晴らしい才能（=XG）を、韓国の先進的なトレーニングシステムで育成し、グローバルスタンダードな音楽として世界に発信する」というもの。つまり、日本の「人材」と韓国の「育成システム」、そしてグローバルの「市場」を掛け合わせた、前例のないプロジェクトなのです。彼の確固たる哲学が、XGのブレないブランディングの根幹となっています。

第2章：全編英語詞 – 世界市場へのダイレクトパス

XGのブランディングを最も象徴しているのが、楽曲の歌詞がほぼ100%英語であるという点です。これもまた、計算され尽くしたグローバル戦略の一環です。

「世界で聴かれる」ための言語戦略

世界のポップミュージック市場における共通言語は、言うまでもなく英語です。XGは、デビュー曲「Tippy Toes」から一貫して英語詞を採用することで、翻訳や字幕といったプロセスを介さずに、北米やヨーロッパを含む最大規模の音楽市場にダイレクトにアプローチしています。これにより、歌詞の持つニュアンスやライム（韻）の面白さが損なわれることなく、ヒップホップやR&Bというジャンルの魅力をストレートに伝えることに成功しています。

リスクとリターン

もちろん、この戦略にはリスクも伴います。それは、母国である日本や、活動拠点である韓国のファンが、歌詞の意味を直接理解しにくいという点です。しかし、XGはそれを補って余りあるリターンを得ています。

戦略のリスク	戦略のリターン
日本・韓国市場で共感を得にくい可能性がある。	欧米圏でのファン獲得が非常に早い。グローバルなバイラルヒットを生み出しやすい。
「日本人なのに英語？」という批判を受ける可能性がある。	「国籍不明」のミステリアスな魅力に繋がり、新規リスナーの興味を引く。

事実、XGはアジアのガールズグループとして初めて、アメリカのラジオチャート「Mediabase Top 40」にランクインするという歴史的快挙を成し遂げました。これは、彼女たちの英語詞戦略が、狙い通りに世界市場で実を結んだことを証明しています。

第3章：謎のベール – “逆算式”プロモーション

XGのプロモーション手法もまた、業界の常識を覆すものでした。彼女たちは、情報を「小出し」にするのではなく、「隠す」ことで価値を高め、ファンの探求心を煽ったのです。

「実力」を先に見せるデビュー戦略

前回の記事でも触れましたが、XGはデビュー前、メンバーの顔や名前、国籍といった情報を一切明かしませんでした。ただ、YouTubeに突如として投稿される、ハイレベルなダンスやラップのパフォーマンス映像。人々は「この子たちは何者だ？」と、その実力にまず惹きつけられました。プロフィールという「情報」から入るのではなく、パフォーマンスという「実態」から入らせることで、偏見なく彼女たちのスキルを評価させたのです。

ドキュメンタリーで「後から」語られる物語

そして、デビューから約1年が経ち、ファンが彼女たちのパフォーマンスに完全に魅了されたタイミングで、満を持してドキュメンタリー「XtraXtra」が公開されました。ここで初めて、5年間にわたる過酷なトレーニングの日々や、メンバーの涙、そして強い絆が明かされます。この「答え合わせ」のような物語の提示方法は、すでにファンになっている人々の心をさらに深く掴み、「私たちはとんでもないグループを応援しているんだ」という確信と、より強い忠誠心を生み出しました。

第4章：ALPHAZとの直接的な繋がり

XGは、マス広告に頼るのではなく、デジタルプラットフォームを駆使して、世界中のファン「ALPHAZ」と直接的かつ強力な繋がりを築いています。

YouTubeとTikTok – パフォーマンスで魅せる

XGのコンテンツ戦略の中心は、常にパフォーマンスです。公式YouTubeチャンネルには、「Dance Practice」や「GALZ XYPHER」のような、彼女たちのスキルを余すところなく見せる映像が豊富にアップロードされています。これがファンによる拡散を呼び、新規ファンを獲得する最大の入り口となっています。また、TikTokでは「LEFT RIGHT」のダンスチャレンジが世界的にバイラルヒットするなど、ファン参加型のコンテンツも積極的に展開しています。

まとめ：XGの成功は偶然ではない

ここまで見てきたように、XGの現在の成功は、決して偶然の産物ではありません。「国籍を問わないX-POPという概念」「世界市場を見据えた英語詞戦略」「実力から見せる逆算式プロモーション」「ファンと直接繋がるデジタル戦略」。これら全ての要素が緻密に計算され、一貫したビジョンのもとに実行されているのです。彼女たちは、既存の成功法則に頼らず、自分たちだけの新しい道を切り拓いています。

この巧みな戦略が、今後K-POPや世界の音楽業界にどのような影響を与えていくのか。XGは、音楽シーンの未来を占う上でも、極めて重要な存在と言えるでしょう。彼女たちの次の一手から、ますます目が離せません！